教育は子どもに対する最大の投資である。
今まで「教育」というと、「東大に子どもを入れたママの教育法」とか、「子育て専門家の◯◯教育法」とか、個人的な経験に基づいた内容が多かったんですね。
そんな中、著者は教育を経済学的に分析するという新しい視点から、子どもにとって良い教育とは何かということを、既存の教育世界における常識(?)をバッサバッサと切り捨てながら論じてくれています。
(例:「ご褒美で釣ってはいけない」「ほめ育てはしたほうがよい」「ゲームをすると暴力的になる」こういった一般論は、教育経済学的には間違いである)
子どもには良い教育を受けさせたい、でも何が良いかわからない、と迷っている方にオススメ。あと、自分は感情論重視だけどパートナーは理屈重視で子どもへの教育方針が合わない、という方にもオススメです。
(周りの理系男子が大絶賛の内容だったので、多分そういう人にウケる内容)
特に印象に残った項目が2つあるのでご紹介します。
- 親の収入と子どもの学歴は比例する。
子育てに成功したお母さんの体験談が多くの人に求められる一方で、そうした体験談では、往々にして、あまたの研究が示す「子どもの学力にもっとも大きな影響を与える要因」については、ほとんど触れられていません。それは、親の年収や学歴です。
「学生生活実態調査」(2012年)によると、東大生の親の平均年収は約1000万円。
世帯収入950万円以上の学生の割合がなんと約57%。
つまり、親の学歴や所得が高いほうが、子どもの学力が高いのです。
それも明確に。
じゃあ学歴も所得もない親が子どもの学力を伸ばすことは無理なのか、というと。
もちろんそんなことはないわけで。
それについては、別の記事でお話します。
もう一つ、印象に残った項目。
- 4歳以下のうちに投資するのが最もリターンが大きい
人々は「教育段階が高くなればなるほど教育の収益率は高くなる」と信じているようです。…たしかに、大学や就職先選びなど大事な選択の直前をどう過ごすかが、その人の人生により大きな影響を与えるのではないかと考えるのは理にかなっています。このため人々は、子どもが小さいときはお金を貯めておき、そのお金を子どもが高校や大学に行くときに使おうとするのです。…しかし、教育経済学はこの思い込みを真っ向から否定します。…もっとも収益率が高いのは、子どもが小学校に入学する前の就学前教育(幼児教育)です。
この就学前教育(幼児教育)は、単なる「教育」にとどまりません。「0歳から学習塾に通わせよう!」ということではなく、しつけなどの人格形成や、体力や健康などへの支出も含みます。学力以外の能力はとても重要であり、特に「しつけ」をきちんと受けた子は、学力も高いという結果にあると本書内で述べています。
かといって幼児期はものすごく手間が掛かるし、復職も重なるし、教育やしつけなんかやってられるかー!という親御さんのために、幼児スクールがあるといいんですけどね。これも追い追い別の記事で。
ここまで読んで、うんざりしたご両親も多いかもしれません。
「子育てとは、なんて手間暇のかかることなのか。…」と。
本書の中盤に著者から、最近では共働きの家庭も多く、子どもの学習に関わる時間が十分に取れないでしょう、と労いの言葉が述べられています。だから、
すべてを親が抱え込む必要はありません。困ったときは、学校や塾、家庭教師の先生なども含む身近な人に頼ってよいのではないかと、私は思います。
子育ては本当につらい。自分の時間は取られるし、今まで気にしなかったことに気をつけなきゃいけないし、正解がないから常に考え続けなきゃいけないし。特に親戚や地域に頼ることができなくなってきた昨今、親の抱える負担はより大きくなっているのではないかと思います。
だけど、育児は育自。
子育てを通して、自分の視野が広がったり、人間としての器が広がったり、今まで関わらなかった人との出会いがあったり。
何より、次の世代を育てることは、国の未来を育てること。
それを実現するツールの一つとして、学力を身につけてほしいと考えている、すべての人にオススメの一冊です。
教育経済学者の私が信頼を寄せるのは、たった一人の個人の体験記ではありません。個人の体験を大量に観察することによって見出される規則性なのです。
人間はだませても、データはだませない。
是非一読ください。